不動産契約時に確認すべき「特約事項」の例

不動産契約では、一般条項に加えて「特約事項」という追加ルールが設定されることがあります。この特約事項は、契約当事者の合意によって自由に定められるものであり、売買・賃貸いずれの契約でも重要な意味を持ちます。しかし、その内容をよく理解しないまま署名してしまうと、後から不利な立場に立たされることも。ここでは、不動産契約で確認すべき代表的な特約事項と、その注意点を具体的に紹介します。

1. 特約事項とは何か?

特約事項とは、契約の基本条件(価格・引き渡し日など)に加えて、当事者間で個別に取り決める追加条件のことです。たとえば「設備の修繕負担」「引き渡し後の修理責任」「リフォームの条件」などが挙げられます。特約事項は法律よりも優先される場合があるため、内容を理解せずに同意すると、トラブル時に法的保護を受けられないケースもあります。

2. 売買契約でよくある特約事項の例

不動産の売買契約では、次のような特約が設定されることが多いです。

  • 現状有姿(げんじょうゆうし)渡し:建物や設備を「現状のまま」引き渡すという特約。購入後に欠陥が見つかっても、売主に修繕義務がない場合があるため要注意。
  • 契約不適合責任の免責:売主が個人の場合、一定期間を過ぎると契約不適合(旧・瑕疵担保)に関して責任を負わないという特約。
  • 境界非明示特約:土地の境界が未確定でも、買主が現状を了承するという内容。将来的に隣地トラブルを招く恐れがある。
  • 建物解体・更地渡し特約:売主が建物を取り壊してから土地を引き渡す条件。費用負担や撤去範囲を明確にしておく必要がある。
  • ローン特約:買主の住宅ローンが不成立だった場合、契約を無条件で解除できるという条項。買主の安全を守る重要な特約。

3. 賃貸契約でよくある特約事項の例

賃貸契約でも、特約事項によって入居者の負担が大きくなるケースがあります。以下のような特約は要注意です。

  • 原状回復義務の拡大:通常の使用による汚れや劣化まで、借主負担で修繕するという内容。国交省の「原状回復ガイドライン」に反する場合も。
  • 退去時クリーニング費用の一律負担:金額が高額な場合、妥当性を確認する必要があります。
  • 更新料・違約金に関する特約:更新時に家賃1ヶ月分を超える更新料や、短期解約時の高額な違約金を定める特約。
  • ペット飼育・楽器演奏の禁止または許可条件:条件違反を理由に契約解除されることがあるため、明確な内容を確認。
  • サブリース契約の制限:転貸やAirbnb利用が禁止される場合が多く、許可範囲を明確にしておく必要がある。

4. 特約事項を確認するときのポイント

特約事項を理解するためには、次のような視点を持つことが大切です。

  • ① 書面で明示されているか:口頭での説明だけでは無効になることがあります。必ず契約書に明記されているか確認しましょう。
  • ② 不利な条件になっていないか:特約が買主・借主の利益を著しく損ねる場合、公序良俗違反として無効になることもあります。
  • ③ 内容を理解しているか:専門用語が多い場合は、宅地建物取引士や弁護士に内容を説明してもらいましょう。
  • ④ 相手方の署名・押印があるか:特約は当事者間の合意が前提です。署名や捺印がない場合、法的効力を持たない可能性があります。

少しでも不明点があれば、「ここは削除できますか?」「書き換えられますか?」と積極的に確認することが重要です。

5. 不当な特約の見抜き方

一見、当たり前に見える特約でも、買主や借主に不利な内容が隠れていることがあります。次のようなケースは要注意です。

  • 「トラブルがあっても一切の責任を負わない」と記載されている
  • 「退去時の修繕費は借主が全額負担」と一方的に決めている
  • 「売主の都合による契約解除も可能」となっている

これらは、法律上無効となる可能性がある特約です。疑問を感じたら、その場で署名せず、専門家に確認しましょう。

6. まとめ

不動産契約の特約事項は、取引の柔軟性を高める一方で、誤解や不利益を招くリスクもあります。内容を理解せずに署名すると、後から「そんな約束は聞いていない」とトラブルになることも。契約前に必ず全文を読み込み、不明点はその場で確認・修正することが大切です。特約を味方につけることで、安心・安全な不動産取引を実現できるでしょう。

著者
契約リスクアナリスト
リーガル匠

元・法務スタッフ。不動産契約書のチェックやトラブル対応を通じて、法律と実務のギャップを痛感。現在はフリーの契約リスクアナリストとして、難解な法制度を「現場でどう使うか」という視点で分かりやすく解説。不動産詐欺・業者トラブルの法的対策にも詳しい。

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